研修報告

令和4年度 第1回 青年部会研修会
オンライン研修 『できていますか?パワーハラスメント対策!』
~法的思考で現場の安心・安全を守る~

【期日】令和4年7月29日(金)13時30分~16時00分
【講師】介護・福祉系法律事務所 おかげさま
    代表弁護士 外岡潤 氏

 労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」が、令和4年4月1日から義務化されたことを受けて、この度の研修会では、職場で起こり得る様々な “パワーハラスメント”に対する予防や対策について法的根拠をもとにご講義頂き、30名の参加者の方々が学びを深めました。

 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)は、わが国で初めてパワーハラスメントについて規定し、その予防を行うための措置を講じる義務を企業に課したものです。この法律を受けて、事業主には、①方針等を明確化及びその周知・啓発。②相談に応じて適切に対応するために必要な体制整備。③職場におけるパワーハラスメントに係わる事後の迅速かつ適切な対応が求められることになりました。身体的・精神的な攻撃や人間関係からの切り離し、過大・過小な要求、個の侵害といった様々なパワーハラスメントがありますが、パワーハラスメントに該当するか否かを判断する際は、「職場において、優越的な関係を背景とした言動であり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもので、精神的・身体的苦痛を与える又は労働者の就業環境が害されるもの」であるか否かを判断することが重要となります。“業務上必要かつ相当な範囲”であるか否かが、パワーハラスメントかどうかを判断する“ものさし”となるということです。パワーハラスメントは、言動や程度、意図、環境、関係性等を総合的に判断しなければなりません。相手の人格を貶める言動は、パワーハラスメントに該当します。また、パワーハラスメントをした当事者(加害者)だけでなく、監督責任のある事業主も安全配慮義務違反となり、法的責任を負うことになる場合がありますので、事業主は予防としての周知・啓発、適切な相談受付体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応に取り組まなければなりません。

 相談に適切に対応するために必要な体制整備を行うためには、マニュアルの整備や関係部署との連携、研修会の開催等を実施する必要があります。講師(外岡潤氏)から参考資料として「相談窓口担当者のためのチェックリスト」が配布され、相談を受付けた際の基本的な流れやポイントが示されました。事後の迅速かつ適切な対応については、被害者に対する配慮や加害者に対する措置についてご説明頂き、加害者に対する就業規則に基づく処分(懲戒処分の種類)についても解説して頂きました。

 カスタマーハラスメントに関する事業主が講じる対策については、努力義務となっており、相談窓口や委員会、法的措置をとる機関の設置や被害者への配慮、被害防止のための取組みを実施することが求められています。カスタマーハラスメントは、近年の傾向として利用者側の権利意識の高揚から増加しているとのことです。過度なクレームや不当要求、悪質な迷惑行為が該当します。具体的には、根拠のない言いがかりや一般の許容範囲を超えた要求(理不尽要求)や主張、長時間の拘束、罵詈雑言、暴力行為がカスタマーハラスメントに該当するとのことです。特に「不当な要求」については、傾向と対策、取り組み事例、対処法の実例を用いて、ご講義頂きました。カスタマーハラスメントについても事業主は、職員に対して“安全配慮義務”があること、違反した場合には損害賠償義務を負う可能性があることを確認しました。また、現場の安全・安心を守るために根拠となるコンプライアンス(法令遵守)をどのように活用するか“現場のコンプライアンス活用術”を学び、グループワークでは、「正当な苦情なのか」「問題行動なのか」「ハラスメントなのか」をグループで協議して理解を深めることが出来ました。

 最後に、ハラスメントの予防や早期対処に取り組まなければ、職員の離職に繋がることや職員が定着しない労働環境になることを認識し、相手方にハラスメントを止めてもらうよう申し入れする際の注意点や申し入れ文章例を解説して頂きました。事業主は、優良な職員が辞めない現場を作るためにも「適切に対応するために必要な体制整備を実施する」、「被害者への配慮のための取組みを行う」、「被害防止のための取組みを行う」ことが重要であり、職員を孤立させないことが大切であることを再認識できた研修会でした。

 参考資料として講師(外岡潤氏)よりハラスメント事例に対して、どのように対応すべきかをより詳細に記した「虎の巻 こうきたらこう返す」が参加者に配布されました。

社会福祉法人 千葉県福祉援護会
中澤 信人