今年度第3回目の「突撃!となりの昼ごはん」は、千葉市若葉区を拠点に、身体障害者福祉の分野で「全国初」の先駆けとなってきた社会福祉法人 宝寿会様を訪問しました。
伝統を重んじつつも、驚くほど柔軟で「利用者ファースト」な現場の熱気をお伝えします。



法人の歩みは、今から約27年前に遡ります。伊藤理事長は、大学卒業後に金融機関を経て、千葉県事業団に奉職し、かつてあった身体障害者重度更生施設「千葉県桜が丘更生園」での勤務後に異動し、千葉県千葉リハビリテーションセンター時代に、施設を立上げ初代施設長を経験し、理事長に就任されました。当時は行政の審査も非常に厳しく、認可を受けるまでに3〜4年もの月日を要したといいます。しかし、その粘り強い歩みが、数々の「全国初」を生み出す原動力となりました。
平成9年頃から進んだ福祉の小規模化の流れの中で、千葉市で第1号となる定員40名以下の施設を実現。さらに平成11年には、当時の主流だった「集団管理」の形をいち早く脱却し、個人の尊厳とプライバシーを重視した「全室個室化」を全国に先駆けて断行しました。その後も、難病のALS患者を受け入れる体制整備や、全国初の身体障害者向けグループホームの設立など、制度が整う前から「必要とされる場所」を形にし続けてきたのが、宝寿会の歴史そのものです。


見学させていただいたグループホームは、まさに「普通の暮らし」を慈しむ場所でした。「グッドラック」は地元の名士の邸宅をフルリフォームした建物で、屋根瓦の趣ある外観とは裏腹に、内部は最新のバリアフリーへと生まれ変わっています。
続く「グッドライフ」では、さらに細やかな配慮が光ります。転倒時の衝撃を和らげるクッション性の高い床材の採用や、自室でIT関連の仕事に励む方のためのWi-Fi完備など、利用者の声を一つひとつ形にしています。また、一般就労で朝早く出発する方の私生活を支えるため、世話人さんが朝5時から朝食準備にあたるなど、スタッフ一人ひとりが「働く背中」を全力でバックアップしている姿が印象的でした。



宝寿会を象徴するのが、職員と利用者への並々ならぬ「食」へのこだわりです。特筆すべきは、伊藤理事長自らが和歌山から50kgもの梅を取り寄せ、職員のために梅干しを漬けていること。これは前職の「千葉リハビリテーションセンター更生園」時代に習得した技術だそうで、設立以来27年間、一度も欠かしたことがありません。
「次は60kg以上頼まないと足りないかな」と笑う理事長。職員の食卓には、理事長特製の梅干しだけでなく、3種類のふりかけや、地域の方から届く落花生、瓜、白菜などの手作り漬物が並びます。「三大欲求の一つである食事を大切にして、お腹いっぱい食べて元気に働いてほしい」。365円という手頃な価格で、ご飯の盛り制限なし。その温かな親心が、職員の活力源となっています。



厨房を預かる栄養士の安藤さんは、開設準備室時代からこの道を支えてきたベテランです。ここで徹底されているのは「職員が食べたいものではなく、利用者が食べたいものを形にする」という理念。月に一度の懇談会では「これが美味しい、あれは味がこうだった」という鋭い意見も飛び交いますが、それこそが真剣勝負の証です。取材日のメニューは、入居者のリクエストによる「アナゴ飯」でした。
27年前から続く「バースデーリクエスト」や、1週間続くクリスマス特別メニューなど、いつ誰が利用しても「食の喜び」を感じられる工夫が凝らされています。さらに驚くべきは、その個別対応の深さ。宗教上の理由で制限がある外国人職員には別メニューを用意し、パンしか食べないという利用者にも寄り添います。
「介助する側からすれば、ご飯の硬さ一つで誤嚥のリスクも変わる。現場の声を即座に厨房へ伝え、できる限りの調整を繰り返す。この積み重ねが信頼なんです」と語るスタッフの言葉に、宝寿会の「やり切る」姿勢が皿の上まで浸透していることを痛感しました。



今回の取材で最も印象的だったのは、伊藤理事長の「どんなに小さなことでも、やると決めたことは筋を通し、結果が出るまでやり切る」という強い言葉です。福祉の現場は、ともすれば日々の業務に追われ、現状維持という名の「マンネリ」に陥りがちです。しかし、宝寿会ではその停滞を許しません。
施設での活動においても、大学のチアリーディング部や警察学校の生徒を受け入れるなど、外部との交流を積極的に取り入れています。それは単なるイベントではなく「毎回同じではなく、どう変化させ、どう新しさを生み出すか」という、常に高みを目指す姿勢の表れです。理事長は、対人援助という高度な仕事に携わる職員に対し、誇りを持ってほしいと願っています。だからこそ、現場が「夢」を見続けられるよう、経営者として常に新しい刺激と挑戦の場を創り出しているのだと感じました。


最後に、伊藤理事長から若手リーダーたちへ、背筋が伸びるようなメッセージをいただきました。福祉という仕事は、人から「大変だけど素晴らしい仕事ですね」と敬意を払われる、極めて尊い職業であるということ。現場のマンネリを排し、いかに高い志を持ち続けられるかが大切だという教えです。


今後の展望についても、大きな事業拡大を追うのではなく「通勤に不便を感じている利用者のために、バス停に近い場所に新しいホームを作ってあげたい」という、どこまでも個人に寄り添った優しくも切実な願いを語ってくださいました。「小粒でもピリリと辛い、中身の詰まった経営」を目指す宝寿会様の姿勢は、私たち次世代の経営者にとって、進むべき道を照らす大きな光となりました。